今から40年ぐらい前のことである。

私は建設現場にある箱番と言われる簡易事務所の建設及び解体の仕事をしていた。
寮もあったが電車に乗ってバスを乗り継ぎ会社に通っていた。
仕事はかなりの肉体労働、他府県にも出かけた。
まだ19歳にはなっていなかったと思うが煙草は吸っていた。が、酒には何の興味もなかったし飲めなかった。

ある日、仕事が終わってバス停に立っていた。
何となく後ろを見ると赤提灯が見えた。立ち飲みであった。
体が酒を欲求したのか、気が付けば中に入っていた。

カウンター越しに、
「おっちゃん 2級一杯」
グラスを持てばこぼれる。表面張力でグラスの口から酒が盛り上がっている。
口を持っていき、飲み干した。

旨いと思った。

「おっちゃん もう一杯」
「にいちゃん つよいなぁ」

一気だった。

「おおきに」

2級酒は90円だった。
バスに揺られ眠ってしまった。そして終点で起こされた。

あれから40年、酒で失敗したこともない。
飲酒運転も運が良かった。
今はむやみに飲みたいとは思わない。
気のおけない人とゆっくりと飲むのが楽しみになっている。