【やまぢさ】

     気(いき)の緒に 
     思へるわれを やまぢさの
     花にか君が 移ろひぬらむ

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鎌倉時代以来「やまちさ」は「えごの木」と信じられていたが江戸期になって「イワチサ説」、今の「イワタバコ説」が提唱された。
「岩煙草」は山や谷の湿った岩場に生える多年草で、葉は小判型でナス科の煙草の葉に似ていることからこの名が付く。
チリメン状のしわがあり、表面はでこぼこしていて夏に紅紫色の肉質のある五弁の花が花弁を反り返らせて一つの茎に4つも5つも咲くが黒百合の花のような悪臭がある。
柔らかい艶のある緑の葉が「萵苣」に似ているので「岩萵苣(いわちしゃ)」とも呼ばれる。

 【やまたちばな】

     あしひきの
     やまたちばなの 色に出でよ
     語らひ継ぎて 逢ふこともあらむ

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「山橘」は山間の木陰に生える常緑小低木「藪柑子」のことである。
成長しても20センチ前後にしかならず群生していると草と間違えるが常緑の木である。
真夏に小さな白い花が下向きに咲くが地味で目立たないので見落としやすい、果実は初めは緑色で10月頃から色づき光沢のある赤色に熟し冬に下垂する。
実と葉が「柑子みかん」に似ていることや藪や山に生えていることから「藪柑子」の名が付く。

同じように冬に赤い実をつける「マンリョウ(唐橘)」を万両金、「センリョウ」を千両金、「カラタチバナ」を百両金と並べて「ヤブコウジ」は十両金と呼ばれ別名で「藪橘」、「赤玉の木」とも呼ばれる。

 【かたかご】

     もののふの
     八十少女らが くみまがふ
     寺井の上の かたかごの花

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「かたかご(堅香子)」は我が国の山野に自生し、特に雪国に多く咲く多年草で「片栗(カタクリ)」のことを言う、かご状の花が傾いて咲くことからカタカゴの名が付いたという。
片栗の花は種をまいて咲くまで七年もかかり、先のとがったピンク色の六弁の反り返った花びらが下向きに咲くが陽がかげり夕方になると閉じてしまう。
葉は紫色の鹿の子のような斑点模様があり花が咲く頃には二枚になるが、それまでは一枚しか地表に出さず片葉だけで別名「かたこ」・「かたこ百合」と呼ばれる由縁であり、地方によっては「ぶんだい百合」・「うば百合」と呼ぶところもある。