手にとらば 消えん泪ぞ熱き 秋の霜       松尾芭蕉

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「母の遺髪を手にとると、わが熱い涙のしずくで、それは秋の霜のように消え去るだろう」

この句の前書きに「長月の初故郷に帰りて、北堂の萱草も霜枯果て、今は跡だになし。何ごとも昔に替わりて、はらからの鬢白く眉皺寄て、只命有てとのみ云て言葉はなきに、(後略)」とある。

長月は陰暦九月。北堂は母の居室、萱草(わすれぐさ)はその庭に植えられたもの。「霜枯果て・・・」は、芭蕉の母がすでに天和三年(1683)に死去したことをさす。はらからは、兄弟のこと、とある。