桑名城には、元禄大火後に再建された時点で51の櫓があったと記録されている。このなかでも、川口にある七里の渡に面して建てられていた蟠龍櫓は東海道を行き交う人々が必ず目にする桑名のシンボルでした。
歌川広重の有名な浮世絵「東海道五十三次」でも、海上の名城と謳われた桑名を表すためにこの櫓を象徴的に描いています。
蟠龍櫓がいつ建てられたかは定かではありませんが、現在知られているうち最も古いとされる正保年間(1644〜48)作成の絵図にも既にその姿が描かれています。蟠龍の名が文献に初めて表れるのは、享和2年(1802)刊の「久波奈名所図絵」で七里の渡付近の様子を描いた場面です。この絵では単層入母屋造の櫓の上に「蟠龍瓦」と書かれており、櫓の形はともかく、この瓦の存在が人々に広く知られていたことを思わせます。

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「蟠龍」とは、天に昇る前のうずくまった状態の龍のことです。龍は水を司る聖龍として中国では寺院や廟などの装飾モチーフとして広く用いています。蟠龍櫓についても航海の守護神としてここに据えられたものと考えられます。
文化3年(1806)刊の「絵本名物時雨蛤」という書物「臥龍の瓦は当御城門乾櫓上にあり、この瓦名作にして龍影水にうつる。ゆへに、海魚住ずといへり。」とあって、桑名の名物の一つにこの瓦を挙げています。

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