それは、とても澄みきった美しい声の響きだった。
どこから声をだしているのかと思った。
まるで新緑の五月に里山を流れる「せせらぎ」のように感じた。

そこは100人ほどしか入れない会場に彼女はアイメイトに誘導されて入ってきた。
アイメイト(盲導犬)名はセロシアという。普段は「セロ」と呼んでいるといった。

大石亜矢子は生まれた時から未熟児網膜症のため目が見えなかった。
武蔵野音大声楽科に学び、卒業後はソプラノ歌手としてソロによる歌唱の他、ピアノの弾き語りを保育園から大学その他で演奏活動を行っている。

会場はグランドピアノが中央に置かれ開演前には満席の状態だった。
『ハートフルコンサート 大石亜矢子』

最初の曲が、ジューリオ・カッチーニのアヴェマリアだった。

大石亜矢子が心がけているのがクラシックを入れ、日本の歌を入れ、後はオリジナルを歌うという。
日本の歌メドレーは秋にちなんだ歌だった。

もし目が見えたら、車の運転をしたい、絵の具をいろいろ混ぜてみたい、一番は鏡で自分を見たいといった。

最後は「花」で終わり、
秋の夜はすばやく更けていった。